今回われわれは、バクテリアには二つの異なるタイプの１００Ｓリボソームが存在することを見出し、その研究成果を「Genes to Cells」2013年7月号に発表しました。
[Conservation of two distinct types of 100S ribosome in bacteria.] Masami Ueta, Chieko Wada, Takashi Daifuku, Yoshihiko Sako, Yoshitaka Bessho, Aya Kitamura, Ryosuke L. Ohniwa, Kazuya Morikawa, Hideji Yoshida, Takayuki Kato, Tomoko Miyata, Keiichi Namba and Akira Wada Genes to Cells, 18, 554-574 (2013)
リボソームは細胞の中で蛋白質を合成する構造体であり、バクテリアにおいては、３０Ｓサブユニットと５０Ｓサブユニットが結合した７０Ｓリボソームとして機能します。ところがその７０Ｓリボソームよりさらに大きな１００Ｓリボソームが存在することを、1990年に、大腸菌でわれわれは発見しました。１００Ｓリボソームは、この７０Ｓリボソームの二量体で、大腸菌の生育が定常期に入って増殖が鈍化すると大量に形成されます。定常期になるとRibosome modulation factor (RMF)蛋白質が作られて７０Ｓに結合すると、７０Ｓが二量体化し１００Ｓリボソームになります。もう一つhibernation promoting factor (HPF) 蛋白質も作られ、RMFの働きを補助することがわかりました。この１００Ｓリボソームは、蛋白質合成活性を持たない休止状態ですが、まわりの栄養条件が好転すると、１００Ｓリボソームは直ちに７０Ｓリボソームに解離して、再び蛋白質合成を開始します。このことから、１００Ｓリボソームをわれわれは「休眠リボソーム(hibernating ribosome)」と名付けました。このように“活性７０Ｓ～休止１００Ｓの相互変換”が細胞の蛋白質合成活性を調節する機構として働いています。近年、バクテリアのゲノム解析が急速に進展するにつれて、この１００Ｓ形成因子のRMF遺伝子が大腸菌を含むガンマプロテオバクテリアには存在するが、その他のバクテリアには存在しないことが明らかになりました。他方、助っ人のHPF遺伝子はバクテリアにきわめて広く存在することもわかりました。但し、ガンマプロテオバクテリアのHPFと比べると、その他のバクテリアは約2倍の大きさのHPF（“長いHPF”）をもっていました。それではガンマプロテオバクテリア以外のRMF遺伝子を持たないバクテリアの１００Ｓ形成はどうなっているのか、という疑問が今回の研究の出発点でした。まずそうしたRMFを持たないバクテリアの一つ黄色ブドウ球菌を調べたところ１００Ｓが形成されることが判りました。そしてRMFに代わって、HPF蛋白質が単独で１００Ｓ形成能をもっていました。今回の研究は、バクテリア全体の１００Ｓ形成を俯瞰するために、多数のバクテリア、ガンマプロテオバクテリア６種とその他のバクテリア８種において１００Ｓリボソーム形成を調べ、比較しました。調べたバクテリアは全て１００Ｓリボソームを持っていました。そして、この二つのグループにはいくつかの大きな相違点があることが明らかになりました。その主な相違点は、(1) ガンマプロテオバクテリアにおいては、１００Ｓリボソームは大腸菌と同様、RMFと短いHPFによって形成される。他方、その他のバクテリアにおいては、１００Ｓリボソームは長いHPFのみによって形成される。(2) RMFと短いHPFによる１００Ｓリボソームは、定常期にのみ形成されるが、長いHPFによる１００Ｓリボソームは定常期に限らず、どの増殖段階でも形成される。(3) 図のように、２つの１００Ｓリボソームは結合の様式が違っており、長いHPFによる１００Ｓリボソームは、RMFと短いHPFによる１００Ｓリボソームより７０Ｓ－７０Ｓ間の結合がより安定強固である。 この二つの１００Ｓ形成をバクテリアの進化に沿って比較すると、先ず長いHPFによる１００Ｓリボソーム形成がバクテリアの全体を覆うように成立したと考えられます。その後プロテオバクテリアベータとガンマ両グループの共通祖先がアルファグループから分岐した時、HPF遺伝子の短縮が起こり、さらにガンマグループがベータグループから分岐した後にRMF遺伝子を獲得したと考えることができます。ベータグループは長いHPFもRMFも持たず、短いHPFだけを持った唯一のグループとして、１００Ｓを形成できないことが判明しました。以上のように、本研究によって、１００Ｓリボソーム形成はバクテリアの世界に極めて広く存在し、２つの異なるタイプに分類されることが明らかになりました。
